2015年6月15日

灰色地区5


ウィンドヘルムの城門の真ん前、玄関口とも言える場所に建つキャンドルハースホール。
その二階の酒場ではダンマーの吟遊詩人、ルアフィンが歌声を響かせていた。


その日の客は不機嫌そうな顔でぐいぐいと酒をあおるアングレノアただひとり。
キャンドルハースホールの女主人であるエルダは、文無しの物乞いのはずの男が次々と酒を注文するのを訝しげに見ていたが、一杯ごとに代金が支払われるため文句はなかった。




ルアフィンが帝国を讃える歌を歌い終わった時、相変わらず不機嫌を顔に貼り付けたままのアングレノアが立ち上がった。

「よくも俺の目の前でそんな歌を歌いやがったな。やっぱりお前も帝国軍どもの手引きをしたんだろう」

酔眼で見据えられた女吟遊詩人は、気丈に睨みかえした。


「私はチップをもらえばどんな歌だって歌うし、リクエストがない時に何を歌うかは私の自由だわ。ストームクロークが負けたのは誰が手引きしたわけでもない。戦いに破れた、ただそれだけよ」

アングレノアは酒臭い息を吐いて一歩一歩ルアフィンに近づいていった。


「そうかい、それじゃあ俺からのリクエストだ。お前が俺のぶっといのをくわえ込んでよがり歌うのを聞かせてもらおうか。心配するな、ちゃんとチップは払ってやる」

顔色を変えて後ずさるルアフィン。
あっという間に背中が酒場の壁につきあたる。


「げ、下品なことを言うのはやめて。それに酒場で騒ぎを起こされたら迷惑だわ」

強がりながらも表情に怯えの色が浮かんでしまう。


「エルダ、この女吟遊詩人さんが、俺を邪魔だと言っているぜ」

呼びかけられた女主人は迷惑そうに溜め息をつく。


「ルアフィン、あなた、ぜひここで歌ってくださいと招待されていると勘違いしてるんじゃないわよね? アングレノアだって、飲み物を注文してお金を払ってくれるんだから立派なお客様だわ。明日からもここで歌って稼ぎたいのだったら、お客様のご機嫌を損ねない様にお相手をしてちょうだい」

ルアフィンに向けて冷たく言い放つと、アングレノアに向き直る。


「あなたも、このダークエルフに礼儀を教え込むのはご勝手ですけれど、あまり床を汚さない様にしてちょうだいね」


女主人の言い回しにルアフィンの表情が凍った。
「ここでこの女を犯すのは自由だが体液で床を汚すな」という放言。


とっさに出口のドアに向けて走った。この建物の外へ、ウィンドヘルムの街路へ出てしまえば、街の門も王の宮殿も目の前だ。そうすれば必ず帝国軍の衛兵の目にとまる……。



ドアにたどり着くほんの手前、追いすがるアングレノアの伸ばした手がルアフィンの衣装の腰布にかかり引き千切った。

- ビリッ!

「キャアァァ!」

ソプラノの悲鳴が響き渡る。


ルアフィンがエルダの命令で嫌々着ていた、胸元が左右に大きく開き尻と脚の半ばが露出するセクシーな衣装。
その腰から下の真ん中を覆っていた一番大事な部分を、力任せに奪い取られてしまったのだ。


最も慎み深くあるべき場所だけをいきなり露わにされてしまったルアフィンは、そのまま外に逃げ出すことを躊躇した。
アングレノアにとってはそれで十分だった。


「細いな……あのチビの方がよっぽど胸があったぜ。まあいい、さっきお預けを食っちまったからな、今は女の穴に突っ込むことしか考えられねえ」

薄汚れたチュニックをあっさりと脱ぎ捨てると、女の抵抗をものともせずに細身の腰をグッと引き付けて怒張に充てがう。嫌がる女の身体の中心部を己の男根で征服するという最高の快楽。


そのまま背後から、グサリと突き刺した。

- ……!!

潤いも不十分な肉孔に強引に挿し入れられた痛みに、声にならない悲鳴。必死に唇を噛んで耐え、無言を貫いた。


自分の喉と声は売り物であるという女吟遊詩人の自尊心が、眼前の下劣な男を、その妙なる声音で楽しませることを断固として拒ませていた。


「へっへへ、我慢してやがるのか? 見てろ、今に思う存分歌わせてやるぜ」

ルアフィンの秘洞の内奥部は未だぴったりとすぼまり肉柱のそれ以上の侵入を阻んでいた。潤滑を欠いた膣壁との強すぎる摩擦は男にとっても不快であるため、まずは浅い位置での抜き挿しを開始する。


屈辱的な結合を果たされてしまったとはいえ、男へのやまぬ嫌悪の念からルアフィンは必死の抵抗を試みた。だが所詮は非力な女の儚い抵抗にしかなり得ず、元兵士の伊達ではない腕力で押さえ込まれ、男の意のままの抽送を許してしまうのだった。
アングレノアは慌てず余裕を持って、亀頭を柔らかく包むとば口付近の膣肉を規則正しく擦り上げてゆく。


「ん……ふぅ……んっ!」

鼻にかかった甘い声が出そうになり慌てて口元を引き締める。
膣口の入口付近で繰り返される出し入れはいつしか女体をも快美へと誘い、ルアフィンは身体の最奥部がじゅんと潤み出すのを止められないでいた。


アングレノアはにやりと口元を緩めると、女の両脚をすくい上げる様にひょいと持ち上げると、そのまま固く屹立する剛直の上に女の身体を落とし込む様にして、ここぞとばかりに蜜壷の奥底をこじ開けにかかった。
再び引き裂かれる様な痛みに襲われ、奥歯を噛みしめてただ耐えるしかないルアフィン。


「あなたは……最低の獣よ! ダンマーの女になら、どんなことをしても許されると思うの!?」

あくまでも抵抗の意志を示すため、喉から侮蔑の言葉を絞り出す。アングレノアは腰を揺すり続けながらちょっと考え込む様な素振りを見せたが、きっぱりと言い放った。


「俺はロルフとは違う。ただ帝国軍の手助けをして俺の望みを踏みにじった奴らが許せないだけだ」

余りに自分勝手で自分本位でしかない男の言い分。そんな男に良い様に身体を玩ばれ犯されているという屈辱と絶望がルアフィンの心をきりきりと締め付けた。

ー ジュプッ!

決壊。
何度目かに強く打ち込まれた男肉の楔が、ルアフィンの内奥の源泉への僅かな隙間を開通させた。たちまちその隙間を、内側から止めどなく溢れ出る熱い潮が満たして、膣道を、肉槍の穂先を潤してゆく。
十分な潤滑を得てぬめりまとわりつく膣襞をかき分ける快感を味わいながら、女の身体を落とし込みつつ鋭い突き上げを食らわせる。


ー ズブゥッ!!

「あうンッ!」

アングレノアはついに己の分身の先端をルアフィンの最も奥底の子宮口まで到達させた。とうとう堪え切れずにソプラノの嬌声が響き渡る。

「ようし、これからだぜ!」

男は吼えるとルアフィンの身体を軽々と扱い、速いピッチで猛然と突いた。
肉棒の先端から根本まで、まんべんなく濡れた柔肉に締め付けられながらの抽送はこれまでとは比較にならないほどの快感と充実感だった。
そしてそれは哀しいことにルアフィンにとっても同様だった。


「あぁっ! あん、あん、あんっ、あふぅぅん!」

濡れそぼった蜜壷を太く固い男のモノで貫かれ、かき回されて、ルアフィンは男の思うがままに鳴かされた。

「ようやく素直に歌う気になったな。セクシーでそそる声をしてやがる。もう吟遊詩人なんかやめちまって、こっちを本業にすればいいじゃねえか」

男からの屈辱的な嘲弄の言葉ももはや心に響かない。
あまりに激しい性交が送り込んでくる暴力的なまでの性感をやり過ごすただひとつの方法は、ソプラノの声を限りによがり続けることだけだった。



- ガタンッ!

「うっ、あっ、あんっ、あんっ、あんっ」

男は暖炉脇のテーブルにルアフィンの身体を放り落とすと、今度は前から、乱暴に突き込んできた。
無慈悲なまでに正確で単調な四拍子の抜き挿しのリズムに乗せて、ルアフィンはめくるめく快感と淫らな恍惚の旋律を延々と歌わされ続けた。



「気持ち良いぜ。上の口も下の口も、揃って俺を楽しませやがる。うぅっ、そろそろ限界だ」

男が子宮めがけて欲望を発射しようとしている、その確固たる意志を感じさせる一段と激しい打ち込み。
それと認識しながらも男の猛る肉塊と自らの媚肉との交接が織り成す愉悦に意識を埋め尽くされ抗えない、最高で最低の気分。

ー 私は、この身勝手で最低なノルドの男に、無理矢理おちんちんをねじ込まれて、好きな様に私の身体で楽しまれて、いやらしい声をいっぱいあげさせられて、それから……それから、どろどろの精液を女の一番大事な場所にかけられて汚されるんだ……



「おぉっ、いくぞ! たっぷり出してやる!」

- ビュルッ! ビュッ、ビュクッ、ビュクン……

「あはあぁぁーん! あっ、あっ! あぁぁーっ!」

淫靡な独唱は艷やかな、だが哀切な響きを帯びた長く尾を引く悲鳴でフィナーレを迎えた。


「うっ、うぅっ、ひくっ…」

満足し切った男がゴボリと音を立てて肉棒を引き抜くと、テーブルの上でうずくまったまま嗚咽をもらすルアフィンの両脚の根本から、男の放った濁液と女の愛液とが混じり合いトロトロと溢れ出す。

「やれやれ、やっぱり酒場を汚しちまったな」

アングレノアはそう言ってルアフィンの下半身をテーブルから引きずり下ろした。上体をテーブルの上でうつ伏せにしたルアフィンの焦点の定まらない瞳には、先ほど出来た男女の体液溜りが映っていた。



服を身につけた男は懐から硬貨を何枚か取り出しテーブルの上の女の顔のそばにチャリン、と転がした。

「ほらよ、これが今の一曲分と、それから掃除代だ。今すぐテーブルを舐めて綺麗にするんだ」



- ぴちゃ、ぴちゃ…

もはや抗う気力もなく、アングレノアに命じられるまま、男が彼女を犯したその汚辱の名残を自らの舌で舐め取ってゆくルアフィン。


そのままテーブルに突っ伏して涙に暮れる彼女を残し、アングレノアは上機嫌でキャンドルハースホールの酒場を後にした。


∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫  ∫



酒に酔い、激しいセックスで身も心も軽くなったアングレノアはふらふらと灰色地区の街路を歩いていた。
と、前方に行く手を遮る人影があった。


「ダンマーをいじめる悪い人間に、お仕置きよ!」

片刃剣を構えてポーズを決めたダンマーの女。
ダンマーの少女ソニアが、サンタクロースから与えられた不思議な青い薬の効果で、成長し強い身体能力を手に入れた姿である。


呆気にとられるアングレノア。だが直ぐに気を取り直して鉄のメイスを構えた。

「ロルフから聞いたぜ。正義の味方気取りのはねっかえりのダークエルフ娘がいるってな」

「それなら話が早いわね。覚悟!」

ー ギン!!


鉄のメイスと片刃剣が火花を散らす。
だがこの時、数多の戦場で生き残ってきた男の経験が物を言った。
絶妙な角度で片刃剣の斬撃の勢いを逸らし、跳ね返す。


- しまった…!

「悪戯が過ぎた娘には罰を与えてやる!」

片刃剣を弾かれて体勢を崩したソニアの鳩尾に、アングレノアのメイスが突き込まれようとしたその時。


ソニアの眼前。
アングレノアの背後に、銀色で大きな丸い物体が広がった。


銀色の皿、の様なもの。それがアングレノアの後頭部目掛けて振り下ろされる。


その銀色の皿の様なものは見る見るうちに更に巨大化し、ゴツンッ、と重い音を立てて男の頭にぶつかった。
ゆっくりと大きな男の身体が崩折れてその場にのびてしまう。

男の倒れたその背後では、スリムな身体にピッタリとした装束を身にまとい、今まさに男を打ち倒した得物……銀のトレイを構えた少女がいた。


驚くべきことに銀のトレイは巨大化した時と同様にしゅるしゅると縮んでゆき、瞬く間に少女の片手に納まるほどの大きさになっていた。
この銀のトレイこそ、ソニアには知る由もないことだったが、伸縮自在、重量さえ増減自在のアレティノ一族に伝わる家宝の魔道具であった。


「大丈夫?」

倒れた男を慎重に見下ろしながら声をかけてきた少女に、とっさに身構えたソニアは相手の姿にはっとなる。


― やだこの娘、顔とか雰囲気とか、何かアレティノくんに似てる……姉弟だったりして……

そこはかとない好意を寄せる少年に近しいその相貌に覚えず警戒心が緩んでしまう。
そんなソニアの素振りをよそに、倒れたアングレノアの懐を探る少女。


「やっぱりこいつ、うちの鍵を持ってたんだ」

少女は男の懐を探って取り出した鍵を見つめつぶやいた。

「どういうこと?」

「僕が留守の間にうちの物が減ってる気がしてね。市場で少し聞いてみたんだけど、どうやらこいつがうちの鍵を手に入れて、勝手に持ち出して売っぱらっていたみたい」

ソニアは気の毒そうな眼差しを向けたが、少女はさほど気にしていない風で言った。


「お姉さんもノルドは嫌いなんだよね?」

じっと見つめる少女の瞳。
夕方に出会った少年によく似た眼差しで「お姉さん」と呼ばれた瞬間、自分の胸の中で何かがキュンと音を立てるのが聴こえた。

― アレティノくんに「お姉さん」って呼ばれたみたい……って言うか呼ばれてみたい! ってやだやだ私、どうしちゃったんだろう……


「べ、別にノルドがみんな嫌いってわけじゃ……。中には素敵な人も……いるから……」

頬を赤らめ、目まぐるしく乙女思考を働かせながらようやくそれだけ答える。


「そっか、良かった。じゃあね」

ほっとしたような表情でにっこりとした少女は立ち上がり、軽い身のこなしで暗闇に駆け去っていった。赤らんだ顔のままその背に向けて手を振るソニア。


言うまでもなくこの少女はソニアが今日初めて出会った少年、アベンタス・アレティノと同一人物である。
だがこの時は隠密行動用の無駄のない着衣のため、身体のラインがはっきりと出て傍目にもはっきりと少女と分かる姿だった。
そのためアレティノを「素敵な少年」と思い込んでいるソニアには、少女と少年が同一人物であるとは思いもよらなかったのだ。

一方アレティノも、自分より背が高いこのダンマーの「お姉さん」が、夕方にアングレノアに襲われていたところを自分が助けた少女と同一人物であるとは夢にも思っていない。


アレティノのことを少年だと思い込み好意を抱くソニア。
ソニアが赤い薬と青い薬で変身出来ることを知らないアレティノ。
その二人ともが、ドヴァキンという男の掌の中にあることを、アレティノもソニアもまだ知らない。

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